研究科長からのメッセージ Dean's message

2021年4月1日

ごあいさつ

人間社会科学研究科長 丸橋 充拓

人間社会科学研究科長
丸橋 充拓

 21世紀に入って早くも20年。人口の減少、持続可能性の危機、社会の分断などの深刻化に加え、コロナ禍にともなう人的交流の停滞にも遭遇し、世界の先行きは急速に不透明になりつつあります。

 人間や社会が直面している課題も、「自由か規制か」「平等か競争か」「開発か保全か」「成長か成熟か」「独自路線か協調路線か」「特殊か普遍か」など、相反する価値観がせめぎ合い、容易に決着がつかないことが増えました。

 こんなときに気をつけたいのは、性急な「決断」に焦がれる志向性です。正義を掲げて特定の価値観のみを是とし、他の価値観を「敵」と視て排撃する。このような空気が広がれば、価値観は画一化され、社会の分断は深まり、近視眼的なパワーゲームだけが人びとの言動を律するようなディストピア(暗黒郷)が出現しかねません。

 このたび産声を上げる私たち人間社会科学研究科がめざすのはその反対、「多様性を持った人間がその多様性を尊重されて共生し、一人一人がその人らしく生きることができる未来社会」の創成です。

 「多様性の尊重」とは、「価値観のせめぎ合い」をそれとして受け入れていくことです。特定の価値観にすぱっと軍配を上げる態度は一見果断なようですが、得られる果実はせいぜい「既存の価値間における一時的な主導権獲得」どまり。しかも多くの人が傷つきます。そのようなものより私たちは、「すっきり結論の出ない据わりの悪さ」に焦れることなく、時に迷い、時に葛藤し、また時には距離を取ったり、衝突をかわしたりしながら、丁寧に柔軟に「せめぎ合い」と向き合っていく姿勢を大切にしたい。「せめぎ合い」の向こうにある新たな地平は、そうした姿勢の積み重ねの先にしか眺望できないのではないでしょうか。

 もちろん「せめぎ合いに向き合う日々」は、決して楽なものではありません。だから、さまざまな特性や知見を持った人びとが集まり、支え合うことが大事になります。

 本研究科に設けられた数多くの学問分野はどれも、そうした難しい日々を支えうる、豊かな知見です。人文科学・社会科学・自然科学  学生たちはそれぞれの流儀で多様性に向き合い、新たな地平を展望し構想する力を身につけていきます。そしてやがては多彩な力を持つ「マスター(修士)」へと成長し、社会に巣立っていくことでしょう。